アードベッグArdbeg

一樽で約30億円。アイラで最も濃いピート。
アードベッグについてよくある誤解がある。ピートが強いほど高級だ、という思い込みだ。ピートは等級ではなく好みの問題でしかない。アードベッグが強烈なのは確かだが、それがグレンフィディックより「格上」という意味ではない。ただ、一度この煙たい燻香にハマると他のウイスキーが物足りなく感じる人が多いのも事実だ。
初めてアードベッグを飲んだ人の反応は、だいたい二つに分かれる。「消毒液みたいだ」と「これがウイスキーか」。面白いのは、同じ人が数か月後に二つ目の反応へ移ることがよくある点だ。ピートは慣れていく味に近い。
おすすめは、最初の一杯は何も加えず香りをしばらく嗅ぐこと。それでも強すぎるなら、水を一、二滴。思った以上に変わる。アルコールの角を取り、甘みとバニラを引き上げてくれる。夏はテン(10年)でハイボールにすると、燻香が炭酸に乗って意外と飲みやすい。
アードベッグはマニア向けマーケティングが最もうまい蒸溜所でもある。「コミッティー」限定品やアードベッグ・デーといったイベントでファンダムを育て、一部の限定品は味よりコレクション欲で売れる。入門なら、その騒ぎはひとまず脇に置いてテン一本で十分だ。
マッカランが「一本」の最高額なら、アードベッグは「一樽(カスク)」の最高額だ。1975年のカスクNo.3は2022年、アジアのコレクターに1,600万ポンド(約30億円)で売れ、樽として史上最高額となった。限定のコミッティ・リリースは発売直後からプレミアがつくカルトブランドだ。
価格は免税・小売の目安 · カスク記録 — 報道(2022)· 個人の試飲評価ではない
アードベッグはアイラのモルトでも最も強くピートを焚いた酒とされる。大麦を約50ppmまで燻し、焚き火・タール・薬品と評される重厚なスモークが正体だ。ところが蒸留器のピュリファイアが重い成分を除くため、強いピートの下にレモンのような意外な爽やかさが流れる。「荒々しくも精緻な」ピートがアードベッグの署名だ。
1815年、アイラ島南部キルダルトンの海辺に設立。20世紀後半の経営難で操業が止まったが、1997年にグレンモーレンジィ(現LVMH傘下)が買収して復活させた。以後、限定版と「アードベッグ委員会」を軸に、ピート愛好家のカルトブランドとなった。
アードベッグはマッカランの「最初のプレミアム」とは正反対の位置にある。強いピートゆえ好みが大きく割れ、好きな人は深くはまるマニアのブランドだ。日本でもアイラ・ピートの愛好家層が厚く、数十万人規模のファン組織「アードベッグ委員会」や即完の限定リリースに支えられ、ウーガダールやコリーヴレッカンが入門の定番に挙げられる。シェリーの甘いマッカランと並べると、二つは味の好みの両極を示す。
ピートが強いほど香りは四方に散りやすく、香りを集めるチューリップ型 — グレンケアンやコピータ — が定石だ。ウーガダールやコリーヴレッカンは50%台後半の高アルコールで、水を一、二滴落とすと煙の奥のレモンや甘みが開く。台座を持って落ち着かせ、開かなければボウルを手で包んで温める。香りが強いので香水やタバコはなおさら遠ざけたい。
出典 · カスク記録 — 報道(2022)· 製法・ラインアップ — ardbeg.com · 製品画像 — Ardbeg
